バリ島 ★ぶうげんびりあ (HTML版)


◆◆◆ 022 / ひどく鼻毛のはみ出た鉢売りであったよ ◆◆◆

ひどく鼻毛のはみ出た鉢売りであったよ

庭に設置していたバスケットのコートが風で大破してしまった。止む無く、バスケットのリングを解体していると、入り口付近をウロウロするオヤジあり。何かを売っているようだった。一瞬目が合う。

『要らない、要らない。』とアタシは反射的に、首を横に振る。オヤジも、諦めたのか、敷地内から出てゆこうとする。

その瞬間、アタシはつい先日、『種を直播きして全滅させた実績があったので、プランターを買おうという計画』になっていたことを思い出す。

『あれは、素焼きの鉢かなぁ。ちと冷やかすか。』

未練たらしく辺りをウロつくオヤジに歩みより、

『一個いくら?』と声を掛ける。

『一万五千だよ。この、デコレーションしたのは三万五千。』

オヤジの顔は、真っ黒に日焼けして、前歯が抜け落ちている上に鼻毛だった。うーむ。あの時、よく笑わなかったよな。たはっ。

『ああ、でも、この鉢、穴が開いてないからダメよ。買えないわ。』と言うと、『穴は開けられる』と、オヤジも粘ってくる。

『そんじゃ、安いの三つで、三万ルピアに負けてよ。黒い焼け焦げがあるからさ。定価じゃ買えないわ。』

いきなり三つ買うというアタシの申し出に、オヤジは、仰天する。たたみかけるように、アタシは、

『全部で五万ルピアにしてくれれば、全部買ってもいいけど。あっ、でも、穴は開けてよね。』と、更に交渉を続ける。

オヤジも、粘って高い値段で売りつけようとするが、『五万にならないんだったら、三個でイイワ。だいたい、全部買ってくれる客がどこにいるのよ。』と、強気なオジャラ。この国は、超買い手市場なのだった。

『この年寄りを哀れと思って、六万にならないか?』などと粘るオヤジを蹴散らして、一旦は、五万で成立したかと思ったが、オヤジにも事情があるようだった。

マイ彫刻刀を渡して植木鉢に穴を開けてもらう。更に、五十メートル程離れた敷地内に、鉢を運ばせる。

『ありがとう。そんじゃ、五万ルピアね。』と、金を渡そうとすると、オヤジは、

『あと、五千、あと、三千、いや、二千でいいからもう少し上乗せしてくれよ。この年寄りを哀れと思ってさ。』

などとまた粘り始める。

『大体こんなに重い鉢を四個も一度に運べるオヤジのどこが年寄りなのよ?元気イッパイじゃん。』と、アタシも、強気に文句を言う。


しかし、アタシの視界には、バスケットゴールの残骸が・・・。

『そんじゃ、あと三千払うから、ちょっと手伝ってくれる?』と申し出る。バスケットの残骸を、遠くのゴミ置き場まで運ぶのを手伝ってもらい、彼はやっと、アタシから開放されたのだった。

五万ルピアはさー、怖い奥さんに、全額払わないと怒られるだろうからね。二千上乗せしてもらって、自分のタバコを密かに買おうという魂胆よね。きっと。

気持ちは判らなくも無い。直径五十センチはある大きな素焼きの鉢で、デコレーションされていた品は、東京の『自由が丘』で一個四千円位で売っている品と同等である。なんだかなぁと、思いながら、新しい鉢に土を入れる。

『あーっ、土運びも、オヤジに手伝ってもらえばヨカッタよ。この鉢、大きすぎですって。』

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