◆◆◆ 1415 ★ 贋作王トム・キーティングの話 ◆◆◆
2009.9.30 更新 トム・キーティングという男は、贋作王である。 何でも、技術は物凄く高かったんだけど、画家としては芽がでなかった。 自分の才能のことは、よく理解できていたのだと思う。 絵画の修復を本業とし、ロンドンの名画の修復という、大きな仕事にも携っていたのだとか。 あるとき、画商から、貧しくて、ホンモノが買えない人のために、名画に似た絵(模写)を作って欲しいと頼まれたのだそうだ。 そうして、何枚かの模写を画廊に渡すと、画廊は、その絵が良くできていたので、オリジナルの作者のサインをいれ、高値で店頭に並べていたらしい。 それを知ったキーティングは、激怒した。 自分には僅かな金しか入ってこないのに、ホンモノとして販売するというのはね、詐欺行為だもんね。 ところが、のれんに傷がついちゃうからね。 画廊業は、信用が第一。ニセをホンモノとして扱っていたなどという噂が広がれば、全ての絵の価値を下げてしまう。 そういう理由から、誰も、後からサインを書き足した話などにもとりあおうとしなかったのだという。 |
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アナタは知らないだろうが、画商同士というのは、仲が良いものなのだ。 新鋭の若手発掘で話題のギャラリーを除けば、画廊業というのは、中古品を安く買い入れ、相場並みで販売するという商売。 自分でいつまでも不良在庫を抱えていても、お客様が増えるというわけではない。 固定のお客様の好みに合う美術品を、別なところから仕入れる。 現金はそんなに続かないから、手持ちの美術品同士を交換とか、オークションで競り合うという会が開かれているのが常である。 この前、ウチに来てくださった八木美術さんも、東京美術倶楽部で、業者間のオークションがあり、そこで、品物を仕入れたというついでに、ウチに立ち寄って下さったということになる。 |
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そこで、最も大切なのは、ニセを掴まされない鑑識眼。 ホンモノかニセかのみわけがつかない人には、画廊業はできない。 趣味で古道具や骨董を集めているような人の中には、全く、鑑識眼の無い人もいる。 そういう眼というのは、やはり、天性の美意識や、作品を真摯に見続ける勤勉さでしか、鍛えることはできない。 キーティングの話に似た話というのは、日本にだっていくらでもある。世界中で起きている話である。 価値を曖昧に、解りづらくすること。真贋を見極める根拠をあえて提示しないことなど、ホンモノらしく、演出することなど、騙そうとするほうも、一生懸命なので、結局掴まされてしまう人もいるわけなのよ。 何でも欲しいの。集めているという人はね、その作品がいいかどうかということよりは、それを作った作家が有名かどうかの方が大事だったりもするから驚く。 そこは、プロ同士、少なくとも、業者であれば、ニセっぽい品には手は出さない。笑。 ところが、キーティングの絵は、上手すぎた。 業者であっても、騙されてしまう。もしくは、安く買い入れた業者が、転売し、その画廊が、ホンモノかもしれない、もしくは、サインを入れればもっと高く売れると考え、あとから、サインを加筆したってことだって考えられる。 掛け軸や、茶椀の箱書きだって、そんなウサンくさい話ばかりである。 |
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権威にハバを効かせて、ニセを扱っているのに、取り合ってくれない業界陣にアタマにきたキーティングは、カンバスの上に、まず、 『この絵はフェイクだ』と描き入れ、それから、贋作を作り始めた。2000枚は描いたと言っているから、その速さにも驚かされる。 彼は、何故、絵の才をキーティングに与えなかったのかと思う。全くついてない話である。 まあ、彼の絵が、名画の贋作として、未だに市場やテレビに出たりもしているわけだから、まあ、画家として成功した人の一人なのかもしれない。 彼が描いたと言っている作品のほとんどは、まだ見つかってないらしいし、美術館でホンモノとして展示されている可能性だって大きい。 買ったほうも、ホンモノとして、高値で買った手前、ニセだとは言い出せず、結局、その絵は、この先もずっとホンモノとして扱われることになるんだろうな。 はぁ。 人間らしくて笑っちゃうね。 ある日、タイムズ紙に、贋作ではないかという疑惑の記事がのり、キーティングは、自分が描いたニセ絵だと名乗りを上げる。 赤外線鑑定をすれば、ニセだということはハッキリしている作品も多いはずなんだけどね、誰もそのことは口にだしたりしないのだ。目には見えないんだもの。笑。 キーティングはその後、詐欺罪で逮捕されるが、画廊が、誰一人、捜査に協力しなかったので、結局無罪になったのだそうだ。サザビーのオークションで、彼の手持ちの贋作が競りにかけられたが、完売したのだという。 この先、彼の絵の価値は上がるかもと内心思わないワケには行かなかった。 |
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