◆◆◆ 700 ★ 藤田嗣治 ◆◆◆

2006.5.18

脅威の40分待ち、しかも雨。

まあ、待っただけのことはあった。

彼のテレビ番組によると、「完全な自分の絵、自分にしか描けない絵を描きたい。それは、自分には必ずできるはずだ。」

強烈な自負心が彼を支えていた。

日本には、日本画というものがあり、洋画の中であっても、日本人としての独自性を求められ、苦悩する画家が多かったのだという。

ま、芸術作品なのであれば、それは、世界に通ずる独自性を持っているのである。

それだけは間違いがない。

であるからして、世の中には、多くの独自性の無い作品が存在するけれども、作家だけが自分の作品を芸術作品だと勘違いしている場合も多いということになる。

この番組は、大変参考になった。この番組を見てから、彼の展覧会に行ったのは大正解。

アタシは、この番組から、「何のために絵を描くのか」というところにやっと辿り着くことができた。

日本でアトリエを開いて、3年もかかったということになる。

先達の生き様というのには、ホントウに驚かされ、また、その努力やご苦労に、心を動かされる。

戦争が何度も起こるという激動の時代でもあり、その度に、日本に帰ってきては、肩身の狭い思いをし、戦犯だと言われ、とうとう日本を去ってしまった画家である。

生前、彼の展覧会を毎日40分待ちで大衆が彼を迎えたのだとしたら、彼も日本を去ったりはしなかっただろうとアタシは思う。

芸術を理解する力が低いと、才能がある人は、理解してくれる国にみんな移ってしまう。

残された創作者の集団が日本を支えているということになり、文化レベルはいつまでも国際化できないでいる。

例えば、パリから帰国して、公募展に出展した藤田の作品を、「日本では有名でないと言われ、画壇では一般扱いとされる」

日本の画壇であれば、そういうことはあると思う。

今まで、画壇に貢献してきた人を差し置いて、外国の有名作家を引き上げたりはしない。

秩序が乱れると、会の基盤は脆く、崩壊の危機が常にあるからなのだと思う。

アタシが、大きな公募展に出さないのは、まだ力が稚拙で落ちるということもあるけれども、関係者にコネなどがないので、入選すらできないだろうというある種の確信があるからである。そうすると、金がムダになるからね。

まあ、一般扱いされたとしたって、フジタは、「自分だけの絵を描いている、俺だって、東洋を背景にした実を持っている」という、確かな自信に溢れていた。

絵の力というのは、絶対的な世界であり、並んだときには、残酷なまでに、力の差がはっきりしてしまうのである。

ま、画壇のセンセイにしたって、世界レベルの芸術家に、自分の公募展に出されても、ホントウに扱いにお困りだっただろうなと思う。笑。

外国で暮らしていると、率直な発言で日常を過ごすことになる。そういう日々に慣れてくると、日本の、回りくどいやりとりには戻れない。

そんな、文化レベルの違いというのもあったんじゃないかなと思う。

日本画壇に失望したということもあり、開かれた場所で自分の絵を見てもらいたい。画壇ではなく、大衆の心を掴みたいと思うようになったフジタは、その後、巨大壁画など、絵画以外の領域の作品も手がけるようになり、戦争記録画へと進んでゆく。

後日、「自分は、自分の芸術の追及などを戦争画でするべきではなく、同士と共に、討ち死にするべきだったのではないか?」と残している。

どうかなあ。

人間には、役割というのがあり、私は、彼が生きて、絵を描き続けたことに感謝をしたいけれどもなあ。

ただ、自分だけが生き残ったということに対して、後ろめたさがあったというのは理解できる。

人間(日本人の感性というのは、そういうものだと思うし、戦争の残したものというのは、いつまでも癒えることのない、心の傷なのである。

彼の戦争画を見た老女が、彼の作品の前に膝まづき、手を合わせ、賽銭を投げている姿を見て、フジタは、自分の絵が、これほど見た人を動かしたという姿を見たのは初めてだと書き残している。

乳白色の女などには見られない、躍動感や人の動き、感情表現が極まってゆく。

躍動感とか感情表現というのは、誰にでも手に入れられるわけではない。日々意識して、その筋の優れた作品を大量に見たり、模写したりしなければ、自分の作品にはなかなか入り込んでは来ないという筋。

見たり、模写したって、自分の絵の中に現れるとは限らない。誰にでも手に入れられる世界ではないから、手に入れた人の作品が、芸術と称されるということのようである。

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