◆◆◆ 641 ★ 目に見えない作品 ◆◆◆

2006.2.17

アタシが、アトリエのスケジュールを公開したのには、実は、もう一つの理由があった。

オシオッサさんと、アタシの不在の日を共有するためである。

彼女は、よくもまあ、あんなに散らかった場所で、たいしてモノも動かさずに、作品を作るよなあと、驚かされる。

散らばっているはずのスリッパが、スリッパ立てに収納されていたり、使いっぱなしのドリルが、置き場に戻されているので、「ああ、オシオッサさんが来たんだ」

と、やっと解る位である。

この前は、アタシ宛のメモが置いてあった。

「止まりかけた時計を、そのままにしておいて下さい」

アトリエに3つある時計のうち、2個は止まっている。

そうして、唯一動いていた時計は、針が先に進まなくなり、秒針は、同じ場所をかすかに動いている状態。

2日程、ワタシは、そのままで作業をしたのだが、帰る時間とか、人が来る時間が全く解らないので、時計の電池を交換することにした。

彼女は、なんでも、「遅れた時間」とか、「進みたいのに、進まない時間」というのを表現したかったらしい。

まあ、それは、それでアリかもなあ。

現代芸術家というのは、やっぱ、考えていることが変だぜ。

でも、時計の作品に関して言わせてもらえば、ありきたりかなぁ。前に、同じような作品を発表した人はいると思うけどね。

残念っ。たいしたことありませんから斬りっ。

というように、結構クールに評価してしまう。

人の作品への関心なんて、その程度である。

そういえば、この前は、アイスのコーンの食べかすと、プラスチックのスプーンが机の上に散乱していたことがあったんだよね。

アタシのアトリエであるので、彼女は、かなり遠慮している風なのだが、この日ばかりは、何かが起きたのだと、アタシは確信する。

スプーンには、顔が書いてあったため、アタシは、彼女に確認することにした。

「あのさー、アイスのコーンの残骸は、捨ててもいーのかしら?それとも、何かの作品なの?」

オシオッサさんは、「あらぁ、どーしたんでしょう?コーンを逆さにして、スプーンの顔を取り付けた、立体作品だったんですけど。」

オジャラ「おおっ。そうだったんだ。アイスのコーン、跡形もないけどねーっ。」

オシオッサ「何が起きたんでしょうか?」

オジャラ「ネズミかなあ。日参してるみたいだし、時には、コーヒーのカスとか、麦茶の出がらしも食い散らかしているからねえ」

オシオッサ「とりあえず、また作りますから、スプーンをどこかに置いておいてください」

といい、会話は終了する。

ネズミに食い散らされたアイスのコーン作品かぁ。

確かに目に見えないぜ。

アタシは、彼女の深さを思い知った。

彼女の作品は、他にも、手のひらに指でハトを描くというのがある。

指で描くので、当然に目には見えないんだけど、描いてもらった人には、クッキリとハトの映像が、脳裏に浮かび上がるんだよね。

すげー。

そんでもって、掌から、ハトが飛び出てくるんだって。

うっひょー。

というように、彼女をネタにして、アタシは、最近、盛り上がることが多い。

人の作品だと、笑い取れるけど、自分の作品がこれだとさー、みんなに、気が変になったと思われるんだよね。

世の中っていうのは、本当に解りやすいぜ。

彼女と話していると、自分は、まだ「まとも」なんだと思えてきたり、彼女は、指で描いた鳥を、一体いくらで売るつもりなんだろうと心配したりもする。

現代系芸術家の行く道は、険しい。

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