◆◆◆ 223 ★ 額縁屋のオヤジの話 ◆◆◆

2004.11.9

アタシが外で大作を描いていると、額縁屋のオヤジがやってくる。

『ヒマなの?』

などと、アタシに声を掛けられる。

アタシは個展前で忙しいんだけどサー。みたいな。

そんでも、昨日、近所の家の引き戸2枚を車で運んでもらったので、邪険にもできず、コーヒーを沸かす。

オヤジは、『ヒマな上に、やる気も起きねー』んだそうだ。

だからといって、ウチに来るなよ。みたいな。

オヤジは、勝手にアトリエに上がりこみ、乾燥中の絵を見てゆく。

『いつの間に、こんなに抽象描いたんだよ?』

オヤジよ。アンタが、この前来てから、今日来るまでの間に決まっているだろう。

それから、新しいサインを見せる。

オヤジからは、いつもサインを変えるように指示が出ていたのだが、まだ小さい文字を書くのが下手で、サインが上手く描けないでいたのだ。

アタシ『抽象画をどの位置からも見られるように工夫して作ったのよぉ』

オヤジは、チラリとサインを見て、

『アンタらしいよ。全く何だか解らない』

などという感想を述べる。

ダメ出しが出なかったので、概ねオーケーというムード。

その後、額に入れて展示してある、左の絵を見て、『この絵はいいっ。アンタの作品のワリには構図がイイ』

などというので、

『そりゃそうだよ。それ、瑛九のパクリだもん。タイトルも、瑛九風だし。』

とアタシ。

『そんなこと、言わなきゃ解らないよ。オリジナルだと言い張ればいいだろう。瑛九なんて、誰も知らないよ』

などと親父。

『あのさー、アタシもねぇ、オリジナル作れないワケじゃないから、人のパクリを自分が描いたなどと言う必要がないんだよね。でも、この絵は、展覧会を見て、気になってさあ。次の日にはもう完成していたのよ。しょーがないじゃない。』

オヤジは、『ウン』と頷く。

複製画ばかりを売っていると、感覚麻痺するのかなあ。

この絵は、全く不思議な絵で、失敗した作品を黒く塗りつぶして、それをまた白く塗りつぶした絵の上に描いてあるんだけど、マチエールというか、なんだか、他の絵に描き返られない魅力があり、まだ展示されている。

色は物凄くキレイなのである。

その後、アンドレア他、黄緑の背景の作品を見て、『もう少し、絵の具ダイレクトの色を、何か混ぜて深みを出せ』などと言い出す。

『色作るのは出来るんだけど、ひび割れた時、修復するのが大変だしさぁ、色キレイだからいーじゃん』

とアタシが突っ込むと、

『こういうのは、扱い筋には、生絵の具と呼ばれて、好まれないんだよ』

などと事情を説明してくる。

アタシ『ヤダー、そうなんだ。知らなかったよ。早く教えてよ。』

そんでもって、今度の日曜に、日展に行くという話になる。

なんでも、知人の日本画家(もしくはそのセンセイ58歳)が大臣賞だったのでそれを見に行くのだそうだ。

『大臣賞っていうのはスゴイねぇ』

『そうだよ。一生に何回も取れる賞じゃないし、取れない人の方が多いんだ。』(→当たり前)

などという話になる。そんでもって、アタシは我流なので、日本の展覧会で賞は取れないという話で盛り上がる。

オヤジ『そりゃぁそうだろう。センセに習って、金払って推薦してもらわなきゃなあムリ。アンタにはセンセイすらいないしな』なんだそうだ。

『センセイなんて、絵で食えない人がなるもんだよ。絵が売れて食べられれば、誰もセンセイなんかやりたくないもん』とアタシ。

するとオヤジは、『大臣賞クラスのセンセイは、優秀な生徒にだけ無料で指導するものなんだよ』

などと裏事情を話してくれる。

おおっ。大臣賞クラスのセンセイは、生徒に才能があれば、無料で教えてくれるモノなのか。うーむ。知らなかったぜ。汗。

人に金を払って習っているようでは、どちらにしたってダメだということのようである。

そんでもって、『アンタも、外国の賞を狙えよ』などと、話は飛躍してゆく。

オヤジよ。アタシの絵をよく見ろよ。まだそんな段階でもないだろう。

絵はやっと見れるようになりつつあるという程度で、それは、全てが見られるというワケでもない。

ごくたまに、鑑賞に耐えられて、金を払ってもイイという絵が出来て、ささやかに売られ、ほんの少し、絵の具やカンバスを買うという日々である。

絵は少し売れ始めたので、これから描く新作は、もう少し高いカンバスにシフトしてゆく予定。

絵の具は、まだ、そんなに高い色を使えない。それでも、油絵の具は日本画の絵の具と比較すると、物凄く安い。

日本画の絵の具が高すぎるんだよなあ。間違いないぜ。

そのあとには、『ヌードはヌードでも、エゴンシーレのような、大胆な構図の絵を描け』などと言いはじめる。

今日のオヤジは盛りだくさんだぜ。

よっぽどヒマなんだろう。

『エゴンシーレって、水彩じゃないの?』

『嫌、油彩じゃねーの?』

みたいな、アバウトな会話は、どこまでも曖昧である。

オヤジが来た時に、オヤジにもらったガラスをカットして、一枚描いた上に、オヤジから買った額縁に入れた作品を見せる。

オヤジ『ガラス質と陶器がマッチしていて、イイなぁ』

アタシ『でしょー。これをいくらで売るか考え中なのよねえ。3000円なら売れるかしら?』

オヤジ『3000円ってことはねーだろう』

アタシ『んじゃ、5000円。』

オヤジ『5000円じゃムリ』

アタシ『そんじゃ、4000円』

オヤジ『だからさー、こう、同じ4000円でも、3980円とかあるだろう。消費税サービスとかよぉ』

アタシ『免税業者だから、もともと税込み価格なんだけど。それに、20円つり銭用意するのが面倒だよ。一人でやってるんだからさぁ。』

オヤジ『商売っていうのは、そういうもんじゃねーんだよ。3000円代だと、どう見てもそれが4000円でも、心が動くっていうのが人間なんだ』

あいだみつをの『人間だもの』みたいに説教臭いぜ。

そうして、彼は、そこいらに散らばっていた深沢幸雄の図録を見て、『アンタも、これ位作れれば売れるんだよなあ』などとアタシの作品と比較する。

オヤジよ。よく考えろ。それ位描けてたら、アタシものこんな貧乏はしていない。

それでも、ガラス絵の出来栄えは悪くなくて、『こーいうのをどんどん作れよ』などと言い残し、かれはやっと帰って行った。

あ゛ー。彼との会話は、いつも笑えるぜ。

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