◆◆◆ 155 ★ ナンシーの話 ◆◆◆

2004.8.5

ナンシーに会ったのは飛行機の中。

アタシは、いつもの通り、絵手紙を描いていた。

小さい男の子が話しかけてくる。

彼は中国語でなにやら言ってくる。

2回目に私のところに来たので、

『日本人だから、中国語は話せない』

と中国語で返答する。

(オジャラは、フランス語も、『フランス語は話せない』ということばだけ、フランス語で回答できる。)

驚くべきことに、今度は、英語で話しかけてきた。

『ボクにも絵を描かせてくれませんか?』

よく見ると、お姉さんらしき人に、一言一言、英語を教わって、都度、アタシのところに話しかけているようだった。

飛行機の中は退屈だ。

しかも、アタシの描いている絵は、まるで子供の絵のようで、彼らも一枚描きたかったに違いない。

私は、彼らに絵を描かせることに決めた。

(子供に使わせると、高い絵の具を大量に消費されたり、筆が傷んだりするから、本音としては、見ず知らずの子供に使わせるのは嫌なのだけれども、覚悟を決めたということである。)

私の心を動かしたのは、『絵を描きたい』という理由で、外国人に話しかけた勇気である。

強い意志というのは、人を動かすものなのだ。

弟のジョニーは8歳、お姉さんのナンシーは11歳。

どう見てもアジア系なのだが、彼女は、英語を習って2ヶ月だというのに、美しい発音で話してくる。

『日本には何しに行くの?』

『5日間の楽しみの為の休暇です。』

などと、全く教科書のまんまという正しい英語なので、私の方が吹き出してしまう程であった。

そうして、私は、色を塗るときには黄色から濃い色にシフトするように教えてあげたのだが、彼らは、全く聞いてはいなかった。

アタシのペンや筆ペンを使い、一枚描く。

裏にも描いて、色を塗る。

太陽やら、自分と思われる人物などを描いてゆく。

好きなように描いている時間が、一番楽しい。

アタシは、ハっとさせられる。

子供に、水彩のテクの話など必要がないのである。

もし、上手く描きたいという欲が出たときに、初めて教えてあげればいい。はじめから上手く描ける必要がない。自由に描くことの方が、もっと大切なのである。

私が、『私は画家なのよ』と自己紹介すると、

ナンシーは、

『私もよ』

と答えるのだった。

本当にその通りだ。

絵を描く人は、誰だって画家である。

絵などというものは、子供にだって描けるのだ。

私はまた、考えさせられた。

ガラガラの飛行機の中で、三人は、並んで絵を描いた。

完成すると、サインと日付を入れるように指示を出す。

ナンシーは二枚の絵を描いた。

二人は描いた絵をアタシにくれるというので、アタシの絵と交換することにする。

オジャラは、人物系の絵を集めているのである。

小さい子が描いた、小さい紙の中の絵は、元気イッパイだった。

『絵を描く喜び』というのがその中にはある。

子供の絵には教えられることが多い。

絵を描く合間に、父親から、絵の具についての質問をされる。

こういうときには筆談が役に立つ。

お互いつたない英語しか話せなくとも、

中国系の人とは、漢字で心が通じ合えるのだ。

水彩絵の具には、『透明系』と『不透明系』があり、私は、『透明系を使っている』こと。

画材店で選択に迷ったら、まず、『透明系を買うとよい』ということ。(←どちらでも構わないのだが、画材店の人は、どちらにするのか必ず聞いてくるはずなので、初心者が迷わないように具体的な指示をしておいたという感じ。)

少し高いように思うかもしれないが、高い絵の具は、色が美しいこと。それは、一度買ってしまえば、何年も使えること。

水彩画で一番大切なことは、水彩紙を使って描くことなどを伝える。

色の広がらない紙に描いていたのでは、水彩画は全く上手くならないばかりか、上手く描けないことに失望して、絵すら辞めてしまいかねないからである。

Hi Rica

Thank you lass time you teach me at airplane.

I came back to Taiwan already. My father have bought these instruments, i will use them. Many time I look them, and i will thinking about you, I hope I can painting well someday. Thanks a lot.

Nancy 7. 10. 2004

ナンシーからメールが届く。

インターネット世代に国境は無い。

彼女はどうやら、絵の具を買ってもらったようだった。

教育熱心なパパがいて、ナンシーは幸せな子だと思った。

意欲があるというだけでは、才能は伸びてゆかないということである。

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