◆◆◆ メゾチントの技法 ◆◆◆

不忍画廊さんで『作田先生』の作品を含む、『メゾチント魅力』という展覧会があったので、

その中の作品から、ちょっと技法のご紹介をしたいと思います。

メゾチントというのは、前にもご紹介しましたけど、

●銅版にまず、黒い面を作り

●今度は白くしたい部分を潰したり磨いたりして版を作ります。

ステップは、『まず全体に黒い面を作る』というのと、『白い部分を作る』という2段階あるのです。

このような技法をメゾチントと呼び、『黒い面を作る』のには、更にいくつかの技法があります。

ここまで説明しているところもそう多くないので、

折角ですので、ご紹介しようと思います。

2004.8記

●ルーレットメゾ

池田満寿夫なんかのメゾチントは、ルーレットで作られています。(不忍画廊の新井さん談によると、彼は、短時間での制作が好きだったので、アクアチントとか、ベルソーを使った面作りなどはほとんどしなかったのだそうです。ついでに、大量に作品がありすぎて、どの技法だったのか忘れてしまうのだそうです。見れば解ると思うから、もう、他界されていて、確認のしようがないということなのでしょう。アタシは、たぶん、あの版は、上がアクアチントで、下のカラー部分は、ルーレットメゾとエッチングだと拝察しました。→作田センセイによれば、全部ルーレットだろうと言っていました。アクアチントはしなかったらしいです。)

今回の展覧会では、満寿夫のメゾチントが何点か展示されていて、勉強になりました。

ちなみに、ルーレットで面を作るのはものすごく体力が必要です。(爆)

こちらの作品は、渡辺栄一先生の、ドライポイントの作品(オジャラ所有)で、黒い部分はルーレットで作っています。

この、一回作った黒い面を、今度は、バニッシャーで磨いて、白い絵を描画するというのがメゾチントということになります。

あ、この作品もルーレットメゾですね。

ルーレットでこすると、版には黒い面ができます。

左が版で、右が、ルーレットで黒くした状態で、白い面を作らずに印刷した写真です。

銅版を、ルーレットで真っ黒にして、そのあと、白い部分を磨きだしてゆきます。

真ん中のハートの部分は、一回黒くした部分を今度は平らに、ツルツルに潰してゆくという作業です。

刷り上りはこんな感じ。

この作品はバッジで、外側は見えなくなってしまいますので、周囲が十分黒くなってませんけど、普通は、銅版全体を真っ黒にします。どのくらい、この黒い面となる筋を作るのか、どうやって黒い面を作るのかというのが、今回の技法の注目部分ってことです。

●アクアチントメゾ

こちらは、この黒い面の部分を、アクアチントで作ってしまうという、随分と大雑把な技法です。

左の作品は、セロテープでマスキングしてから、アクアチントしていますので、マスキングした部分が白く抜け上がっていますけど、メゾチントの場合、一旦、画面全てを真っ黒にします。

そんでもって、真っ黒な版の面を潰して、版を作るのです。

アクアチントの版は、こんなふうに、小さい穴が大量に銅版に出来た結果、穴の部分にインクが入り、黒く刷り上るということになっています。

ですから、この、穴が深ければ、深い色の黒になるという結果になります。

でありますからして、メゾチントを本格的にやろうと思えば、もっと深い黒を作ろうという方向に進みます。

アクアチントの面というのは、比較的浅いのです。

ルーレットの面も、そんなに深い黒は作れません。

でありますからして、もっと深い黒を追いかけると、専門の道具を使った作品を作るということになるのです。

こちらにあるのは、ベルソーという品物です。

下が刃になっていて、これを銅版に垂直に立てて、前後に揺らしながら銅版に筋の傷をつけてゆきます。

当然に、直線にしかつけられませんので、縦、横、斜め、逆斜めという風に、イロイロな方向から銅版に筋をつけてゆき、真っ黒い面にしてゆくのです。

今度、道具持っている人がいたら、作業の写真を撮影させて頂こうと思います。

この、ベルソー(フランス語でゆりかご)という道具は、物凄く深い溝を作ることが出来ます。逆に言えば、この筋を潰して白い面を作るのが大変だということなのです。

一旦できた溝の集合体を、平らにすることによって、白い部分を浮かび上がらせるということです。

作田富幸先生の崩(メゾチント)

左の作品はメゾチントの作品です。

この作品を初めて拝見したときに、白い部分に残る、筋のようなものが気になりました。

近くに寄って見ると、細い筋が大量に残されているのです。

『センセイ。あの作品に残っていた筋は何なんですか?』

と質問を致しますと、

『ベルソーによる目立ての溝が深いので、完全には白く版を作りきれない結果』なのだそうです。

アタシも一度だけアルミ版でメゾチントにチャレンジしたことがありますけど、なかなか白い部分を磨き上げるのが大変な作業なのです。

ですから、こんなに細かい描画を、あんなに深い溝から作り上げるという作業が、物凄い技術だというふうに理解してください。

作田富幸先生のfrom Leonardo(メゾチント)

こちらの作品も、よくみると白い部分に、筋が残ってしまっています。

銅版画は、画面の濃淡の芸術です。

黒と白の対比、バランスや配置、グラディエーションによる美しさ。黒の黒さと白の潔さ。

『点と線と面』しかない世界で、それをどのように表現するのかという芸術なのです。

ご自分で作ったりしなければ、ここまで詳しく知る必要も無いと思いますが、もし、作品をお求めになる前提で、技法のことを知りたいとお考えの方には、ご参考になると思います。

白い地に線だけで描画された作品と比較すると、一旦白い面を真っ黒にして、さらに、黒の中に白を浮かび上がらせるというのは、銅版画が持つ独特の表現方法だと思います。

そうして、その、黒い面を作る方法は、主に3種類あるよ。

●ルーレット

●アクアチント

●ベルソー/ロッカー

このような方法で黒い面を作って、それを、白く抜き出した作品だよ。

そう理解してください。

そうして、ルーレットより、アクアチント。アクアチントより、ベルソーによる作品の方が、より深い溝、深い黒が作れるよ。

溝が深いほうが、白い部分を作る作業により、高い技術が必要だよ。そう理解してください。

まあ、並んでいる作品を見て、買いもしないくせに、『これは、アクアチントメゾですね?』などという、マニアックな質問をするアタシは、かなり画廊の方に嫌な顔をされます。たはははは。