版画を買う前に知っておきたいこと その2

何故版画を作るのか?

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●どういう人が版画を作るの?

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版画を制作するタイプには、3通りあると思います。

●版画だけを作る版画家。

●他の作品を作っていたけど、安く販売できる作品も作りたくて版画を始める画家さん。

●アタシのように、カルチャースクール系のお教室などで版画を習い、ボチボチと好きな作品を作るタイプのアーティスト。

版画だけを作る版画家さんの版画というのは、他の2タイプの版画と比較すると、物凄く技術が高いです。

学校も、『●●美大版画家卒』などという人が多く、絵を描く技術もシッカリしているのに、

版画でメシを食べているという人たちです。

アタシの知る限り、『版画協会』などの会員さんの優れた版画でも、

信じられないほど安い品も多くあり、全く驚かされます。

世の中の人は、本当に、価値が解らないのだと思わされますね。

そうして、そんな安価な優れた作品であっても、知名度が低いという理由だけで、誰も怖くて買えないという、

アート市場の解りにくさこそ、問題だとアタシは思っています。

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●何故版画を作るのか?

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何故版画を作るのかといえば、同じ品質の作品を、沢山作って安価に売ることができるからなのです。

油絵などを描いていると解るのですが、一点が完成するまでに、何年もかかるという作家さんも多数存在します。

乾燥するのが遅いし、上から描きなおすことができますので、どんどんと、

姿を変容させてゆき、納得がゆく作品になるのはいつになるのか解らないみたいな部分あるのです。

そうすると、その間の生活費なんかも、僅かに完成した絵から捻出しなければならず、

一点当たりの値段が、とても高くなってしまうのです。

しかし、アートを買う方の懐というのは、そうとは限りません。

250万円は出せないけど、25000円なら買ってみても良いというのが普通の感覚です。

画家は絵を売って生活をしなければなりませんので、『一年に一枚しか完成しない絵』

ばかりを描いているのではなく、『版画作品にも転用して、日銭もボチボチ稼ぎながら、

大きい作品の制作を継続する』という人が多いということです。

そうでなければ、一点モノの作品を描くほうが、よっぽど高く売れるのです。

そんなこんなで、『画家なんだけど、版画も作っている』という作家さんも沢山存在しています。

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●実際、どれくらい刷れるのか?

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木版画なら、500枚とか刷れるらしいです。後のほうになると、版画磨り減って、

美しい状態の作品はつくれなくなるらしいです。

銅版画の場合、凹版の作り方によって変わります。

技法によっては10枚が限界ということもあるのです。

完成した版をニッケルでメッキして版の表面を強化することもあります。

そうすると、700枚くらいは刷れるみたいです。

逆に、まだ、20枚しか作っていなくても、版が使えなくなってしまえば、

エディションを100枚と設定していたとしても、制作はそこでストップということもあると思います。

物理的に、200枚も作れるのかという心配もあります。一人ではムリな数なのです。

でも、忙しくなった場合、印刷は、誰かに手伝ってもらったり、金を払って、

外注したりもできるのです。そういう余地も残して、できるだけ、沢山売りたいという気持ちです。

オジャラは、銅版画で、エディション番号が500枚とか、700枚というのも見たことあります

(マティスやピカソの版画っす。)当然に、この枚数には、サインは入っていません。

版の中に入っているということが多いみたいです。

だから安いということではありませんが、だから安いという場合もあります。

取り扱った画廊やディーラーの才覚にも大きく影響していますね。

有名作家さんの作品だと、池田満寿夫で200枚とか、そんな感じです。

まだ、無名の方は、30枚程度のエディションの方も多いです。

版画を買う方は、この、『何枚刷られているのか』というのを

『エディション』を見ることにより確認できるのです。

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●どうやって、管理しているのか

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他の作家さんたちがどのように管理しているのか、アタシは知りません。

自分としては、将来に渡って、版やエディションが間違いなく

管理できる、版画の管理ノートというのを作っています。

試し刷りの作品数点と、作成方法、印刷予定数、印刷した枚数、

作者の所蔵扱いの枚数などを、版ごとに記録しています。

この記録の作業は、プロの版画家さんならどの版画作家さんもやっていることだと思います。

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●どうやって、刷ってゆくのか(銅版画編)

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わたしの場合、銅版画の多くの版画は、初回、最低三枚を刷ります。

いい版であれば、そのまま8枚から10枚を刷りあげます。

(最近失敗が多くて、ストックを持っている作品は少ないです)

通常、初回の刷りで、版が完成している場合には、この数より刷りましたりはしません。

初回の枚数に番号をつけて、とりあえず、これを袋に入れて、ファイルに収納するのです。

版のコンディションや、作品の完成度を見て、売れそうなやつであれば、100枚とかを予定枚数にします。

そうして、管理ノートなどに書きとめて、何枚まで作ったので、あと何枚刷り増せるかとか、

解る範囲では、誰に渡ったのかまでを記録しています。

『手持ちの在庫が無くなれば、更に、刷り増して、ノートに記録する』というのを繰り返します。

この記録がないと、自分でも、何枚まで作ったのか、解らなくなってしまいますから。

版画の場合、100枚が一度に全部売れるということはありません。

展覧会などでも、画廊には、それぞれを3-4枚納品し、不足するようであれば、

あとから急いで刷りまして、お客様に納品するというのが普通のようです。

ですから、エディション番号が100枚となっていても、この世に存在するのは、

8枚だったりすることが、今の所は多いということです。

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●どうやって、刷ってゆくのか(リトグラフ編)

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リトグラフというのは、銅版や木版と比較して、版の保存期間が短い版画です。

3ヶ月程度とも、6ヶ月程度とも言われています。

科学反応を使って版をつくるので、薬品が酸化等を起こし、

版が壊れてしまうのだと思います。

そんなこんなで、リトグラフの印刷というのは、一気に行われます。

30枚なら30枚、100枚なら100枚を作り、一気に印刷され、版は処分されてしまいます。

ですから、銅版画のように、注文があったら刷りましてゆくという考え方と少し違います。

初心者は、この、『版の保管が、どの位の年月できるのか』ということに着目して、

版画の枚数について考えてみてください。

『銅版画は、何百年も保存が可能であり、版が良いコンディションで残っていると、

作家の死後であっても、何枚でも作れてしまう』ということに他なりません。

ですから、他の版画より安価なのかなあと思ったりします。

作家の死後、作品の価値が上がり、作家の家族などが、画廊の要望に応じて、刷り増しを

許可したりするこもあるということです。

アタシはね、『死後の刷り増し』ということをキチンと明記して販売するのであれば、

それは悪いことではないと考えています。買うほうにしてみれば、

優れた品を安価に手に入れられるチャンスが増えるからです。

どっちにしても、作家が心がけるべきところは、自分が何枚作ったのかというのを、

モレ無く記録しておくということでしょう。

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●きちんと記録された作家の版画は、画廊も扱いやすい

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この記録は、何のために記録するのかといえば、自分の管理用でもありますけど、

画廊やお客様に信用してもらうのにも使えます。

エディションは30枚と決められているはずなのに、作者がノートなどにそれを記録していなければ、

何枚作ったのかが、曖昧になりますよね。そういう、だらしがない作家さんは、版画家には向いていないのです。

アタシは、この5年間で、120枚以上の作品を作ったわけだし、この後、スケッチや油絵も含めて、

あと8000枚を作るというのを目標にしています。

そんなもんで、一つ一つの版ごとに、作品はきちんと管理して、サンプルも所有するようにしています。

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●作者の所蔵品(A.P.)

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版画は、同じ作品を何枚も作れるという特徴があります。

油絵などは、その絵が一枚しか存在しないので、作品を売ったらそれで終わりですけど、

版画の場合、作者は、自分の作品を取っておくことが認められているのです。

この、作家用の作品というのは、それは、売りに出した作品とは別に、作ることが認められています。

これを、日本語では、『作者の所蔵品』と呼び、英語では、『アーティスト・プルーフ』と呼ばれ、

版画には、『A.P.』と書かれます。

テレビで拝見した感覚だと、だいたい、そう刷り数の、10%位、作者所蔵が認められているということでした。

そんなもんで、アタシも、エディションの他に、作者の所蔵として、

その程度の枚数を所有することにしています。

どの作品に何枚APを持ったのかも、版画ノートに記録されています。

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●どうやって価格が決定するのか

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どんな売買であっても、商品の価格というのは、売りたいという人と、買いたいという人の、

価格の合意というのがあって、初めて成立するものです。

買いたいという人が、『もう少し安ければ買ってもいい』などと言い、値引きに応じるお店と同じことなのです。

どんな商品であっても、価格は、売り手と買い手の合意によって決定されるのです。

ですから、アートというのは、もともとの価格が存在しないわけだし、

原価が安いのですから、値段というのは、画材代と作者の人件費が中心になるということです。

制作に何時間くらいかかるのか。時給は600円なのか、1500円なのか。

それに、額縁代とか、絵の具代とか、そんなのを足して、ある程度の値段は出るんじゃないかと思います。

その他、画壇に入ったり、センセイへの付け届けをしたり、画廊のレンタル料を払ったりすると、

その価格も上乗せされるということになります。

価格というのは、コストに忠実なのです。

とはいいながら、描き手と、買い手のそれぞれの懐具合で決まるということも多いです。

どちらかというと、買いたいという人より、売りたいという人のほうが多いので、

価格の決定というのは、買い手の要望に沿う内容で、価格が決定するこということです。

逆に、人気がある作家さんの作品は、買いたい人が沢山いるわけですから、

値段が多少高くても、買う人が出てきて、相場というのが出来てくるってことっすね。

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●美術年鑑に載ったりすると。。。。

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あー、美術年鑑っすね。

あれはね、電話帳と同じシステムらしいです。

載せて欲しいと、作家が頼んで載せていただくと、号当たりいくらという、

自己申告のお値段まで指定できるらしいです。(号というのは、ポストカード程度の大きさです)

オジャラは、税務署のおにーさんに、オジャラの絵の評価について相談したことがありました。

彼はね、美術年鑑のことを切り出したので、『電話帳と同じ自己申告制なんで、

あの値段は当てにならないし、結局大幅に値引きして売られることが多いらしい。

当事者同士の売買なのだから、値段というのは、相応の合意によってのみ決められる』

と説明したら、彼は、ビックリして、アタシの絵の原価は、ゼロってことで申告することになりました。

たははは。原価ゼロの商品って、電子本みたいだよなあ。

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●その割には、アートってお高い

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そうっすね。やっぱ、画家には、絵を販売する能力が低い人が多いんっす。

絵を販売できる力があるのは、画廊や、デパートなどのアートコーナーなんかに限られているんっす。

彼等は、メチャクチャ安い値段で絵を仕入れて、額をつけて、自分達の儲けも出る価格で販売している。

そうすると、まあ、あの程度のお値段になるのは仕方ないってことです。

どんな方だって、生活しなければならないんです。

絵を売る能力がある方に、販売を頼むと、作家の生活は安定してきますし、

絵の値段を少しずつ上げていってくれますので、自分で安く売り続けるより、

双方にメリットがあるってことなのかもしれません。

画廊と画家というのは、とても大切なパートナーで、どちらも、相手無しでは、

生活が成り立たないという構造になっているんだと思います。

インターネットが出てきて、作家がお客様に直接アートを売るようになったら、

画廊は大変だよなあ。

(そういう作家さんがいないワケでもありませんが、どの作品もお安いのが特徴です。)

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●お客様の希望

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お客様としては、品質の良い品を、安く買いたいのです。

品質の良い品というのは、良い画材を使い、(→耐久性が違うんです)、ホンモノであるということです。

作成者本人であれば、ニセということはありません。

ですから、アーティストから、直接買いたいと思っている方も多いんです。

それが、一番安く手に入れられるし、仲良くなれば(年賀状などの)、おまけも期待できるからです。

逆に、画廊は、そんなアーティストが増えてくると、自分の経営がなりたたなくなりますんで、

そんな勝手な作家は、アート業界から締め出してしまうこともあるみたいです。

アート業界というのは、『美術年鑑が電話帳』というのと同じように、巧妙に、

イロイロな仕組みが準備されていて、関わる人みんなにお金が分配されるようになっています。

そうやって、お金を払い続けてゆくと、有名になれるという構造なのです。

それが、いいとか悪いとかいう話ではありません。それが現実だということです。

そうして、そういう中で、アタシは、インターネットを中心に展開しようと考えています。

なんていっても、専攻マーケティングなんです。自分が学んだ知識が、

正しいのかどうか、自らの商品で、検証したいと考えているのです。

(うーむ。変なこだわりだぜ。)

 

 

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